愛媛県生まれ。2002年関西大学工学部建築学科卒業、04年関西大学大学院工学研究科建築学専攻修了、04~15年木原千利設計工房、16年乗松得博設計事務所開設、17年チルチンびと住宅建築賞 若手建築家部門 特別賞受賞。趣味は子供とおもいっきり遊んで笑うことが、明日への活力になっています。
住まいづくりではお互いの信頼関係のもとに、幸せな住まい、暮らしがうまれます。建築家は、建築主の頭の中にうかぶ住宅像を見定め、寸法を与え、形として表現する。そこでの暮らしが、家族の心をゆたかにし、幸せにする。
そこに美しさがある。
それが建築家の仕事だと思います。そうしてうまれる住まいは、そこで暮らす家族の色をしているのです。
デザインに関しては、日本らしい美しい建築を創りたいと思っています。伝統的なもの、歴史的なものに習い、いかに新鮮に現代の生活スタイルに取り込み、融合させられるかを考えています。
ザウスで設計を手がけた施工例
設計例
「ある画家のアトリエ」
南に正対した2階建てのアトリエとギャラリーでもある玄関、「くの字」に折れ曲がる畳の間の配置。
一人の画家が、キャンバスの向こうに、そして自分に向き合い、一つの絵画を生み出し、鑑賞する場所。
そこは、静けさや、緊張感を纏った場所。
そこに、劇的な何かは必要ない。ここでしか生み出されない、特別な光や気配が存在する。このアトリエは、そんな場所であるべきだと思った。
和泉山脈を源として大阪湾へと流れる河川を見下ろす場所にある。
画家のアトリエ併用住居である。
元々この地にあった木立の中に建ったかのような、そんな佇まいになればいい。
木立の中、緩やかに登りながら蛇行する小径を、陽の光を浴び成長する緑に目を奪われては、立ち止まり、また進んで行くと、深い軒の先、格子戸越しに、画家の作品が飾られた壁が見えてくる。そこは、柔らかい色調の大谷石が敷き詰められ、地窓の先には竪格子の塀で囲われた庭へと視線が抜ける。
畳の間。そこで人は、腰を下ろす。先ほど歩きながら目にした緑を、ここでは、開口を抑えた室内から目にする。高木は幹のみしか見えない。芽吹く新芽、色付く葉、揺れる枝葉、見えない先を想像する。川の音に気付く。雨風で掻き消される程の音だが、雨の降った翌日の朝、そのことに気付かされる。
上流からの湿った風と朝の清々しい光を取り入れる開口、軒と格子が直射光を遮る東西のハイサイドライト、障子を立てこんだ南の吐き出し窓、それぞれの開口が、性質の異なる柔らかい光を制作の場に注ぐ。ここは、常に変わらない環境を与える場所ではない。壁で隔てた外の様子を感じ、筆を置く、そしてまた塗り重ねる。
確かに変化する日常の中に何かを捉え、表現する画家は、その変わるけれども変わらない、雲の動き、水音、緑の濃淡、一日の陽の移ろいを感じながら、またキャンバスに向き合う。
「ある画家のアトリエ」
アプローチからの外観。緑や自分の家を見ながら歩く、一歩一歩が、いろいろなものを払い落とし、素の自分に戻る時間になります。
「ある画家のアトリエ」
深い軒の先で覆われた玄関ポーチ。格子戸越しに、画家の作品が飾られた壁が見えてきます。
「ある画家のアトリエ」
大谷石を敷き詰めたギャラリー兼玄関。正面に中庭があり、右手は畳の間前室。障子で前室を囲いながら足元先に障子の光を感じます。
「ある画家のアトリエ」
凛とした中に、柔らかな雰囲気のギャラリー兼玄関。アトリエとの間の壁内には太鼓障子が引き込まれています。
「ある画家のアトリエ」
アトリエ南面。正面開口にはガラス戸、網戸、太鼓障子が壁に引き込まれています。緑を身近に感じられる空間です。
「ある画家のアトリエ」
朝夕はハイサイドライトの格子越しの光、昼は障子越しの柔らかな光で満たされます。
「ある画家のアトリエ」
壁から持ち出された軽やかな木製階段。階段一段目の手摺は、ふっと手にしたくなるような形状を考えました。
「ある画家のアトリエ」
ソファーに座って、しっとりとした北庭とギャラリーの絵画を眺められます。
「ある画家のアトリエ」
階段踊り場からは、ハイサイドライトの格子越しに、庭のシンボルツリーの緑や、庭の草花等、また違った景色を楽しむことができます。
「ある画家のアトリエ」
畳の間東面。床の間の高さ150mmのスリットは、見る場所や高さによって違う景色となり、地板は太陽の反射によりいろいろな表情を見せ、緑に染まる時間もあります。
「ある画家のアトリエ」
畳の間南面。庭の景色を切り取る、高さ1300mmの開口。幹しか見えない高木は、その先を想像することになります。
「ある画家のアトリエ」
鴨居に仕込まれた照明が天井を照らしアトリエ全体に光が拡散されます。
「ある画家のアトリエ」
アトリエ北面夕景。北庭に面した開口は川上流からの風と朝日を取り込みます。ロフトは別名川見の間。東面の開口は、床に座って丁度いい高さ。
「ある画家のアトリエ」
室内を照らし外に漏れる灯りが、帰宅する家人を迎え入れる建物の姿を思い描きながら設計をしています。