「クライアントの声」を最も大事にしたいと思うのです。

角 直弘(スミ ナオヒロ)

1964年生まれ・大阪府出身
1988年 京都府立大学 生活科学部住居学科卒業
1988~93年 高松伸建築設計事務所勤務
1993年 角直弘建築設計事務所 開設
1996年 設計組織 Den Nen Architecture 結成
2006年 株式会社和空インターナショナル設立 取締役就任
2009年 京都府立大学生命環境学科環境デザイン学科 非常勤講師

われわれはデザイン(creation)を始める時 言葉、空間、時間のもつ意味をまず解体します。あるいはフラットな状態に戻す、既成概念から離れるといってもいいでしょう。

そこから再び組み上げられる空間やデザインは まったく新しいものではなく古くからある意味性を 再び現在の状況にあわせて再構築したものです。クリエーターですから 新しい物事を生み出したいとおもいながら、日々、思考をめぐらすわけですが 新しいものを求めると必ず古いものの持つ意味性にぶつかります。新しきを訪ねて古きを解するといったところでしょうか… 我々は一見すると現代的な建築の設計を行っているように見えます。

しかし伝統的な建物にある魅力のもつ意味を再考し、リスペクトし、 それらの精神性を未来へ向かって、再構築していくことが われわれの未来へ向けた設計活動です。

建築設計では、様々なレベルで「他者」を意識しなければいけません。建物を創るという視点で考えれば、最も重要な「他者」は住宅に住むことになる住まい手であり、 その人達が発する「声」を想像したり、直接耳にしたり、 より喜んでもらえる様に建物をアジャストしていくことだと思います。

しかし、実際の設計・建築現場においては住まい手が住むに至るまでに、 様々な「声」を聞くことになります。それは、設備屋や内装屋などの専門業者であったり、建設会社のスタッフであったりします。 施工者の「こうした方が良いんじゃないか」という「声」は、 建築過程において向かうべき方向性を示してくれることが多いですし、 その提案のままに設計自体を修正する場合も少なくありません。

しかし我々が特に注意をしているのは、その「声」が「どのくらいの重要度で発せられているか」 です。建築の工程で「ここは、この様にしたほうが良い」と提案をもらった時に、 われわれが向いている方向性と一致しない場合、 その業者が「どういうつもりで言っているのか」と戸惑う時があります。 建築過程においてこの方が作業がかさばらずに済む、 うちの在庫では対応できないのでコストがかかる…等、施工者側の都合での「声」と 住まい手の安全性や利便性を考えた上で、確信に基づき、 必要にかられて述べられている「声」では大きく意味合いが異なります。 当然、後者の「声」が多いのですが、実際には前者のような自分本位、 つまり住まい手を考えない「声」も少なくはないのです。 業者間の会話では、コストや納期の部分に入り込んでしまい、住まい手不在のまま 建物だけが作りやすい方向に進んでゆくケースも少なからずあるということです。

住まい手にとっての住み良い住空間を考えるのであれば、 プロデューサー的役割をもつ建築士が、クライアントの「声」を最も聞いて、 最も理解していなければならないと思われるのです。ただ、それら様々な「声」のある中で、 実は一番影響力の大きいものに、「自分の声」というのがあります。 「自分が良いと思うもの」「自分として譲れないもの」等、 絶えず自分に問いかけてくるこの声が一番厄介かもしれません。建築家のなかには、この「自分の声」ばかりを大事にするばかりに、 それを前面に押し出し、あるときは熱弁まで奮う方々もたくさんいるのです。

「自分の良い」は本当に良いのか、はっきりと判別する方法はありません。 さらに、この「声」はのさばらせておくと「エゴ」に成長する危険すらあります。何にせよ「どんな意見にも一度耳を傾ける」心の姿勢はもちつつも、 我々は我々に建築に携わる機会をいただいた、 また夢を形にしようと決心してご依頼をいただいた 「クライアントの声」を最も大事にしたいと思うのです。 それが建築の原点でもあり、豊かな住まいへの第一歩とも我々には思えるのです。

ザウスで設計を手がけた施工例

設計例

富雄北の家

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浦堂の家

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丸太町の家

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