愛車を眺めているだけで幸せな気分になります。1/1スケールのミニカーケースという感じ。

雑誌 ガレージのある家 vol.37 掲載 photo / アトリエ・フロール株式会社text / Shunsuke OOBUCHI(大渕俊輔)

垂直方向に視線を広げ、あらゆる空間を丁寧に使う。新富町の狭小 ガレージハウス ・東京

所在地/東京都
敷地面積/58.2m2(約17.6坪)
建築面積/43.6m2(約13.2坪)
延床面積/117.0m2(約35.4坪)
ガレージ/15.4m2(約4.7坪)
ビルトイン台数/2台
愛車/1972年式 カローラ・レビン、ディーノ246GT


理想の家を建てるか、理想の土地に家を建てるか。家づくりを考える際にぶつかる壁のひとつだ。だが、後者を選択したとして理想の家にならないかと言えばそうでもない。
N邸を見ながら、その事例を確認いただくことにしよう。

Nさんは賃貸マンションで暮らしていた時期から、「いつかは ガレージハウス を」という想いを持っていた。さらに、住み慣れた地に新居を構えたいとも考えていたという。しかし都心、さらにオフィス街というイメージも強いそのエリアには、そもそも住宅用地の出物がそれほど多くない。”藁をもつかむ思い”と言うと大げさかもしれないが、住宅づくりのプロに相談するのが早道なのではないかとの結論に落ち着いたのだという。

 ガレージハウス 外観夜景
外観写真。オフィスや古くからある商店が立ち並ぶエリアにあるN邸は、都心部にはよく見られる間口が狭く、細長い形状である。「候補の中には変形地もあったので、きれいな長方形な土地が見つかったのは幸いでしたね。待ったかいはあったと思います」とはNさんの言葉。

Nさんがコンタクトを取ったのは住宅のプロデュースを行うザウス。本誌をお読みの方にはお馴染みかと思うが、ガレージハウスを数多く手がけてきた家づくりのプロ集団だ。Nさんの要望は、クルマ2台を格納できること、リビングから愛車を眺められること。そして、住み慣れた場所での土地探しから依頼をすることで話は進んでいった。

詳細は省くが、結果として理想の地に17坪の土地が見つかるまでに2年半の月日を要することとなった。その間、候補地が見つかっては断念するという日が続いたというが、理想のガレージハウスを実現するための打ち合わせは並行して進んでいた。

レビンとディーノという、共に’70年代に生産された日伊の名車が同居するガレージ。ディーノは必ず手に入れると決めていたようで、設計段階からサイズなどをイメージし、1年ほど前に悲願は成就することとなった。ちなみにレビンは17年所有しているそう。

N邸の設計を担当したのは濱里豊和さん。ガレージハウスについて豊富な経験を持つ濱里さんは、Nさんのクルマに対する情熱をくみ取りながら、それを的確に図面に落とし込んでいく。ようやく土地が見つかった時には、あとは微調整をして当てはめるだけという状態だったようだ。

当初より電動リフトを駆使した2台格納を想定していたため、天井は比較的高めに設定されている。マザーズ製のリフトは事前に採寸や用途について打ち合わせが成されるため、ジャストフィットが約束される。
ガレージと居住エリアは大きなガラスによって隔たれるため、ドアを閉めた状態でも開放感が損なわれることはなく、ショーケースのような眺めを楽しむことができる。らせん階段はスペースを効率よく使うためにもひと役買っている。

それではN邸の全容を見ていこう。都心部ではよく見られる縦長の土地に建てられたN邸は、ガレージドアを開けていなければ、ごくごくシンプルな戸建て住宅に見える。これは多くの人が行き交う街なかにあって、無用な存在感を放ちたくないというNさんの要望を考慮した結果なのだが、その分ドアを開けた瞬間のインパクトはなかなかのものだと言っていい。これまで読み進めて、「17坪に2台?」という疑問をお持ちの方もいたかもしれないが、その答えは写真のとおり電動リフトによる2段駐車というわけだ。マザーズ製のリフトは設置前に現地調査を行うことで、各ガレージに適したサイズやオプションを選択できる点が特徴で、N邸のそれも上段のレビンが天井に接触することなく停止するよう調整されている。

メンテナンスは馴染みのショップに任せているため工具は必要最低限だが、壁掛けタイプを選択して省スペースにも抜かりはない。奥には換気ダクトが上下に2ヶ所ついている。
豊富な壁面収納が活用され、とてもすっきりとしたリビング。ナチュラルな色合いのガラス枠や同色の階段など、「愛車を眺めながら生活したい」というNさんの希望通り、クルマを主役にする心遣いが随所に見られる。
リビングの端に立つと、N邸がスキップフロアであることが実感できる。中央に集中する階段の存在感を少しでも抑えるため、手すりを極力細く、踏み板も薄めに作られていることが分かる。

そのまま奥に進むと、大きなガラスに隔てられる形で居住スペースが見えてくるわけだが、中央のらせん階段から続くリビング、キッチンダイニング、そしてその上のゲストルームに至る空間がスキップフロアによってつなげられ、わずかな視線の動きで家じゅうを見渡せるよう仕立てられている。実際、様々な角度から眺めてみたが、確かにどのフロアにいてもクルマの存在が感じられ、Nさんの要望がよりグレードアップしてかなえられた印象だ。

隣家との距離が近く、横方向からの採光が期待できないことから、最上部に天窓を設け、自然の光をすべてのフロアに導いている。これも垂直方向に空間を使った理由のひとつと言えそうだ。
全体としてはNさんの趣味が強く反映されたお宅だが、キッチンには奥様がこだわった業務用ステンレスタイプを導入。水跳ねが考えられる手前側には足触りのいいタイル、写ってはいないが奥側には一段上がった畳スペースが用意され、ここでそのまま食事をとることもできる。

「ずっと憧れていたディーノも手に入れることができ、とても満足しています。こういうクルマですので、月に数回のドライブがやっとですが、眺めているだけも幸せな気分になります。近いうちにリフトに照明をつけてライトアップを図りたいと思っているので、1/1スケールのミニカーケースという感じになるのではないでしょうか」とNさん。

ベースフロアから最上段まで、空間がひと続きとなっているN邸は、別フロアにいても隔絶された印象はほとんどない。また、用途毎にフロアを分けることで、使い方も明確になり、煩雑な印象も抑えられそうだ。

ガレージハウスの価値は人それぞれだが、17坪の土地にこれだけ凝縮されたクルマ趣味世界を築いている例を見ると、「あの土地でももしかしたら……」と考えてみたくなるのではないだろうか。

本来は寝室ではないようなのだが、Nさんは玄関奥の部屋にベッドを持ち込んでおり、本当の意味で四六時中、愛車の姿を楽しんでいる。確かに地面に近い位置から見上げる2台には、いつもとはまた違ったかっこ良さが感じられた。

ガレージハウス オーナーズチェック

ここがお気に入り

家のどこにいてもクルマが見えるのがうれしいですね。

ちょっと失敗

特にありません。

これからの夢

リフトに照明をつけて下段のクルマにも光が当たるようにしたいと思っています。

読者へのアドバイス

土地や建材、盛り込む設備など、あとで後悔しても遅いのが家づくりです。焦らず妥協せずに取り組むことが高い満足につながると思います。

From a Architect

濱里さん

土地の広さは決まっていますので、水平方向の広がりには限界がありました。そこで、垂直方向に空間をつなぎ、それらをガラスによって隔てることで、明るさと開放感を演出しています。また、窓も上のほうに集め、効率よく光を取り込めるよう工夫しています。打ち合わせをしていて印象的だったのは、Nさんのクルマに対する情熱、特にディーノについての熱い語り口でした。ガレージ部分のガラスをはめ込む支柱も、横のラインをどの位置に持ってくるとクルマがきれいに見えるかを、Nさんと一緒に検討したことが思い出されます。一方で、「物が少なく見える家」というご要望に対しても、あらゆるデッドスペースを使い、収納やディスプレイ空間としました。家の中には有効に使えるスペースが意外とたくさんあるものです。それらを使い切ることで、狭小地でも家族とクルマが快適に暮らせる家ができると思います。

Planning Data

所在地東京都
竣工2014年8月
敷地面積58.2m2(約17.6坪)
建築面積43.6m2(約13.2坪)
ガレージ部面積15.4m2(約4.7坪)
外装仕上げALC+ジョリパッド
内装仕上げクロス張り
愛車1972年式 カローラ・レビン、ディーノ246GT
設計濱里豊和(濱里豊和建築事務所)
施工株式会社 深山工務店
プロデュースザウス株式会社・ザウス東京店

ガレージのある家 vol.37 掲載

発行年月日:2016年11月19日
出版社名:株式会社ネコ・パブリッシング

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